放送日：２０１６年１月２５日

「暗さの演出」

　毎週「あかりの演出」というコーナー名で、自然光や人工照明など皆さんの身近にある光についてお伝えしていますが、今回は「暗さの演出」と題してお話したいと思います。

　日頃、ほとんどの方が日中の明るい時間にオフィスや学校、自宅で家事をされるなど活動的な時間を過ごされていると思います。太陽の自然光もそうですが、おそらくその際、上から降り注ぐ昼間のような白い光の中で過ごされていると思います。この昼間の白く明るい光環境は、人が快活に活動的な時間を過ごすには適しているのですが、夜間暗くなり仕事や家事も一段落して、心を落ち着け心身ともにリラックスした時間を過ごすには不適な光環境といえます。
　このような、心や体の疲れを癒す寛ぎの時間を快適に過ごすには、やはり夕日のように暖かな光色の低い位置から照らす「あかり」が最適といえます。

　例えば、仕事帰りに立ち寄るバーなど、店内はカウンターやボトル棚が適度に明るくなっているだけで、店全般には暗い空間となっています。また他にも落ち着いてお酒を楽しむような店でも、いくつかの演出照明はあるでしょうがテーブルを照らす光以外、店内はうす暗さを保つ空間になっています。
　何故、バーなど夜の癒しを求める場所は暗いのでしょう？
　実は、あえて暗くすることに、とても効果的な働きがあるのです。

　百数十年前に人工光源ができる前まで、人は夜の時間、焚火などのわずかな明かりだけで生活してきた為、夜の暗さに不安や緊張を感じる中で、炎の光を見ると自然と心に安心感を得たり、また、その暖かな光を見ると穏やかな昂揚感とともに心が安らぐ気持ちになる効果が心身ともに長い人類史の中で備わってきたといわれています。
※例⇒暖炉の光、キャンプファイヤーの光、祭事の提灯・行燈、イルミネーションなど・・・
　つまり人が精神的に宿す癒しの「あかり」とは暗さの中で効果が現れることになるのです。

　このような癒しの「あかり」を、夜のお店だけでなく、ご自宅で再現できるとしたら・・・
　例えば、夜の晩酌などご夫婦が恋人同士に戻れるような時間や就寝前ひとり物思いに耽る寛ぎの時間など、主にリラックスした時間に落ち着いた雰囲気を醸し出すには、まずは全般照明といわれるお部屋全体を照らすような天井照明を消すか、調光をし照度を出来るだけ落とし基本となる暗さを作ります。そこに、先ほどお伝えしました適度な電球色の柔らかな光をフロアライトなど、光源高さの低い器具を１灯、２灯追加します。それによりお部屋に適度な陰影が生まれ、その光に引き寄せられるかのように穏やかな心安らぐ気持ちに誘う演出として、ご自宅で出来る最適な「暗さの演出」になるのかと思います。