放送日:2018年3月2日

「寛ぐあかり その1」

 今回から「寛ぐあかり」と題しまして、皆さんの身近な住宅照明などに照らし合わせながら、寛げる空間に、設ける「あかり」の使い方や考え方についてお伝えしていきたいと思います。

 いきなりですが、「寛ぐ」とは、いったいどんな状態をいうのでしょうか?
言葉だけ取ると、仕事などを忘れて伸び伸びとする。心身を休める。気兼ねなく楽な恰好になりゆっくり過ごす。なんて意味になるようで、英語ではRelax=リラックスという言葉となります。今では日本語としてもよく「リラックスする」なんて普通に使われますよね。
 さて、ご自宅の中で「寛ぎ」「リラックス」される場面とはどんな時でしょう?
 
 書斎や趣味室に籠ったり、中には、トイレの中が落ち着くなんて方もいらっしゃるかもしれませんが、多くの方は、リビングでテレビでも見ながらゆっくり家族団欒なんて場面が、一般的な寛ぐ場面になるのかと思います。
 では、その寛ぎ空間となるリビングの照明はどんな感じでしょうか?
おそらく、多くの家では天井に大きなシーリングライトが1灯取付けてあるか、ダウンライトがいくつも並べてあり、そのリビング全体を照らしているといったイメージでしょう。また、白い光で万遍なく、とにかく明るく照らす照明を好む方も多く見られます。しかし、これらの明るい天井照明の照らし方ですが、本当に「寛ぐあかり」なのでしょうか?
 
 遠い昔から、人は太陽の動きや明るさに合わせ暮らしてきたことで、昼間の白いあかりでは活動的になり、夕方・夜間は赤みを帯びた色で少し暗いあかりの方が落ち着くといった心身に作用する体内時計が備わっており、それらの時間帯に合った光環境で過ごすことが、健康的にも優位に働くとされています。この事からも本来、人が感じる、寛ぎ・リラックスといた環境にするには適度な暗さが必要となるわけです。
 しかしながら現在、日本の照明基準は明るすぎるといわれています。実際に作業空間における平均照度の基準から見ても、欧米に比べ2~300lx程高いといえます。その要因に、高度成長期以降に蛍光灯が普及する過程で「明るいこと=豊かさ」といった誤った認識が広まったことや、日本人が働き者だからということも一因として挙げられます。
 確かに、日本の住宅では、ただ寛ぐだけというより、仕事や勉強など、何かしらの作業空間としてリビングを兼用するケースも多く、また最近では、リビングで勉強されるお子さんが増えているとも聞きます。これでは、「寛ぐあかり」を考える以前に明るくしないといけなくなります。
 つまり、日本の住宅の多くは、寛ぐ空間であるはずのリビングが、寛ぎとは正反対な矛盾した環境になってしまっている現状にあるわけですね。
では、このような多様性を持つ空間となるリビングに、本来、人が感じる寛ぐ雰囲気をもたらす光環境にするにはどうすれば良いのでしょうか?

 それは既成の照明はそのままに、工夫次第で実現します。次回はお部屋の雰囲気に変化をもたらして、本来の寛ぎを生み出す効果的なあかりの方法についてお伝えできればと思います。

 「寛ぐ」は英語で「リラックス」といいますが、その「リラックス」をスラング読みで「chill」という言葉になります。例えば「chill out」を和訳すると「まったり(落ち着く)」といった表現が日本語では近いかもしれません・・・
「寛ぐあかり」と題してお伝えしましたが、ただ寛ぐ・リラックスするといった言葉でイメージするよりは「“まったり”と寛ぐ」とした方が、忙しい日本人にとっては本来の寛ぎをイメージしやすいのかもしれませんね。