放送日:2019年4月5日

「明る過ぎる住環境」

 新築や改装など、住宅を新しく建築する際、一般的に現代の建て主の多くが明るい家や空間を好まれ、その要望がそのまま設計に反映され計画がすすんでいく傾向があります。
 しかしながら、建て主の要望通りに暗くなる箇所をなくす様に照明を加えていくと、どこもかしこも必要以上に明るくして、部屋の四隅まで全体を明るくする必要のある学校や事務所の照明のような光環境ができてしまいます。これらは本来、住宅照明に求めるべき「落ち着き・癒し」といった人の生理心理に安らぎを与える環境とは逆行した「光環境」であり住空間においては不向きといえる照明計画になり得ます。
 昨今、主流の生活光源に多様性のあるLED光源が一般普及していく過程で、「人」と「光環境」の関係性について、さらに研究が進み、従来の単一的な明るすぎる住環境をあらためる動きが着々と進み、少しずつですが一般の方々の意識も変化している現状にあります。
 そこで「明る過ぎる住環境」と題しまして、今でも根強く残る過剰な照明計画・明るすぎる住環境について、考えていきたいと思います。

 そもそも何故?明る過ぎる住環境は好ましくないのか?

 冒頭にもお伝えしましたが、一般的に家の照明は明るい方が良いと思われる方が実際のところ多くいらっしゃることと思います。では・・・なぜ? 明るい方が良いのか?という問いに明確な答えを言える方はいらっしゃらないと思います。・・・それは、そもそも、この問いに答えなんてないからです。
 
 照明は明るいと良くて、暗いと×とする安易な捉え方で解決できるものではなく、どんな建物においても部屋の使用目的・条件によって、それぞれに適正な照明は様々で、ただ明るいから良いというものではないのです。もちろん住宅でも、人が多く集まる時や掃除される時など、部屋全体を明るくする方が良い場合もあります。しかしながら、一つの部屋に部屋全体を照らすような照明だけである場合、例えば、昼夜問わず、家でゆっくり寛ぎたい時や特定の方が家事や作業を行う際、明る過ぎる光環境では、ゆっくり寛ぐには不向きな環境であり、また一か所で家事や作業を行う時に視界にも入らない場所を長い時間照らし続けることは省エネの観点からも良くない結果になります。このことからも部屋全体を照らすだけの変化のない明るさに良さを感じられるかと問いたいのです。
 つまり、ある時間にある行為だけを行う学校や事務所のような使い方と違い、住宅照明においては、お部屋全体を墨々まで明るく照らす照明だけでなく、使用目的や時間によって、本当に明るさが必要な場所はどこか。整理した上で、時々、必要となる場所に必要なだけの照明を設置し、照らさなくてよい場所は照らさないように工夫するなど、照明計画に意図を持たせることが必要で、それによって、無駄な電気代を無くなり、使い勝手が良く、さらには空間の雰囲気づくりにも幅を持たせ、豊かな住環境の創造が可能となる照明になるのです。

 それでは、なぜ?・・・いつ頃から・・このように、とにかく明るさを好む考え方が定着してしまったのでしょう?

 高度成長期以降、白く明るい蛍光灯の急激な普及によって、半世紀以上続く「明るさ至上主義」という考え方、「照明はできるだけ(白く)明るい方が良い」とした間違った考え方が定着し、住宅照明においても過度な照明計画とする動きとなる大きな要因のひとつになっています。

 LEDの台頭で、明るさだけでなく光の質や機能性に富んだ照明器具も増え、間接照明など従来の住宅にはなかった演出性の高い照明手法も多く取り入れられる様になりました。
 しかしながら「明るさ至上主義」な考え方を変えずに照明計画を行うと、いくら機能性・演出性の高い照明器具を取付けても、ただ使用する器具が変わっただけで、従来と変わらない「明るすぎる住環境」となる罠がそこにはあります。
 
 そこで次回は、「明る過ぎの罠」として具体的に失敗しない為の秘訣などお伝えできればと思います。