第599回 あかりの演出 「寛ぐあかり その2」 2018.03.09
放送日:2018年3月9日
「寛ぐあかり その2」
前回より「寛ぐあかり」についてお伝えしております。
普段であれば学校や仕事、家事なども一段落する就寝までの夜の時間帯、多くの方は、リビングなどでテレビでも見ながらゆっくり家族と過ごすなんて場面が、ごく一般的な寛ぐ時間となるのかと思われます。
そんな夜の寛ぎの時間を照らす「寛ぐあかり」とは、一体どんな「あかり」が必要になるのでしょう? そこで今回も「寛ぐあかり」について考えていきたいと思います。
本来、人が生活する上で最適な光環境とは、長い人類史の中で培われた太陽の動きや明るさに合わせた環境となります。その為、夜間であれば、夕日やわずかな炎のような赤みを帯びた色の光環境の中で過ごすことで、目から入る光の情報が脳に伝わり、夜になったな、では心身を休めようといった具合に、自律神経系のバランスが整えられて、心も体もリラックスしようとする働きが人には備わっています。この事から考えると本来、夜間の寛ぎの時間に最適といえる「あかり」には、赤みを帯びた光による適度な暗さが必要であるといえます。
しかしながら、昼も夜も明るい電灯照明の環境に慣れてしまっている現代人にとっては、このような光環境が暗いと感じてしまうのかもしれません。
例えば、ホテルに泊まられた際、少し暗いなと感じられた経験を持つ方も少なくないと思いますが、実際には、スタンドライトやブラケットライトなど複数の照明によって適所に必要な明るさが得られるようになっています。しかし多く方は、普段の明るさとの差が大きく慣れない環境の為か、暗いという印象だけが残ってしまうのではないかと考えます。
一般的な日本のリビング照明は「1室1灯」といわれ、大きなシーリングライトが1つあるか、複数のダウンライトが天井に設けられ、その1種類の照明によって天井から部屋全体を万遍なく照らす形がほとんどと思われます。ただ寛ぐだけでなく家事やお仕事、お子さんの勉強など、なんらかの作業に使用されることの多い日本のリビング空間では、このような全般的に照らす照明が好まれるのかもしれません。しかしながら、このままでは本来の「寛ぎ」に最適な「あかり」として考えると正反対な光環境と言わざるを得ません。
先程、ホテルの照明を例にあげましたが、寛ぎを重視する空間では複数の照明が適所に設置されています。これら複数の照明によって適度な陰影も生まれ、雰囲気も良くなります。しかし、実は雰囲気を良くするだけでなく、光の重心(光源の高さ)を天井から下げることで、人が本来、落ち着きを感じ寛げる空間を「あかり」で演出しているのです。
つまり、「寛ぐあかり」の本質を考えると、光源の高さが重要なポイントのひとつとして挙げられます。
従来の天井照明の照らし方に慣れてしまっている感覚から、急に光源を下げた照明環境に入ると、始めは薄暗く感じることでしょう。しかしながら、照明は明るい方が良いといった「明るさ至上主義」に囚われた誤った考え方によって、現代人が忘れかけている「落ち着き」や「安堵感」といった日々の暮らしを豊かにする感覚を「寛ぐあかり」は思い出させてくれることでしょう。