放送日:2018年4月20日

「光のおもてなし」

 今回は「光のおもてなし」と題して、光による“おもてなし”とは何か?
「あかりの演出」の観点から少し考えてみたいと思います。
 「おもてなし」とは? 「もてなし」に丁寧語の「お」を付けた言葉であり、その語源は、平安、室町時代に発祥した茶の湯から始まったと言われ、大切な人への気遣いや心配りに「表裏なし」、つまり、表裏のない「心」が築いた世界に誇れる日本の文化といえます。
 
 茶の湯といえば千利休が有名ですが、その利休が茶の教えに残した「利休七則」の中の一つに「夏は涼しく、冬暖かに」という心得があります。客人のことを考えて隅々にまで気を配り、客人に喜んで頂くことが肝要であるという意味を込めた言葉です。その表の言葉で考えると、空調のない時代、夏暑いときは打ち水をして涼を誘い、冬寒いときは温かい菓子を出すなどして、客人が少しでも快適にその場を過ごせるよう、その季節にあった気配りを欠かさなかったそうです。また、ある逸話に夏の早朝、利休が客人を招いた際、茶室に向かう竹垣にたくさん咲いているはずの朝顔が全て摘み取られているのを観て不快に思った客人が、躙り口を潜った茶室の中に見たものは・・・朝日に神々しく照らされ佇む、床の間に掛けられた一輪の朝顔でした。つまり、その一人の客人の為だけに、早朝全ての朝顔を摘み取ってまで、しつらえた総合的な演出だったのです。このことからも、心を込めて目に見えない心を目に見えるものに表し、その努力や舞台裏は微塵も表に出さず、主張せず、もてなす相手に気遣いをさせないことが、「おもてなし」の本質といえるかもしれませんね
 この逸話でも、朝日で朝顔を照らしたとありましたが、利休が自ら作り上げた2畳の間に床を設けた狭い茶室「待庵」は、もっと微妙で繊細な光の演出を可能にする空間となっています。茶室もそれまでの北向きから南向きに変え、種類の違う障子窓を複数設け、時間帯や季節による、窓から入る光の量や方向を調整し、時々に必要な光環境を創り上げたとされています。また、室内は黒っぽく着色した土壁として、光をあまり反射させないことで、光と影の対比がかなり強い状態になり、光の演出効果が、反射光に邪魔されず最大限に活かされる創りだったようです。このことからも、利休は「おもてなし」に光の演出を取り入れた総合演出家だったのでしょうね。

 ではここで、現代の光による「おもてなし」を考えてみると、LED照明によって、より繊細な光環境設定が実現でき、様々な場面に応じた演出をすることが可能になっています。
 季節や天候、時間、食事に集う人の年齢、性別、職種などの様々な要素に応じて、心を込めた「光のおもてなし」ができると考えます。そこで次回は、現代の人工光源を使った「おもてなしの心を表す光」とはどんなものか?・・・お伝えできればと思います。